(思い出を教えてください)
こんなところまでわざわざ来ていただいて、ありがとうございます。
まあ私はしゃべるのがあまりうまくないので、ご勘弁下さいね。あの子の思い出を話す前に、この子を紹介してもいいですか?拾い猫の『香』ちゃんです。実は私は将棋が趣味なもので、コマの中でも特に香車が好きでね。まっすぐどこまでもすすむあの姿勢がいいでしょ。どんな逆境にも負けずに突き進んで欲しいなって願いを込めてつけました。
この子は東京に住んでいる孫が遊びに来た時に拾ってきたんです。
近所にね、神社があるんだけど、その境内に続く大鳥居の階段下でしとしと雨に打たれていたんです。何か、ぼうっと魂が抜けたように座っていました。孫が餌をあげても食べようともしない、抱きかかえようにもそこを離れようとしない。親を探してもどこにも見当たらないもんで、困り果ててたら、車に向かって過剰に鳴きついたんです。もう飛びかかる勢いで。私は、まさかと思い、子猫が見やる道路の向こう側の畑を覗くと、そこにはもう目を覆いたくなるような猫の姿がありました。きっとこの子の親猫だったんでしょうね。どんなことがあったのか、私にはわかりませんが、この子に耐え難い現実があったのは想像できました。
雨が上がるのを待って、孫と一緒に裏山にお墓を作りました。お別れと知ってか知らずか子猫はずっと鳴いていました。か細い声で。あの鳴き声は忘れられませんね。
家に帰って、どろだらけのこの子をきれいに洗ってやると、かわいいきれいな白猫でした。澄んだ瞳のきれいなメス猫。若くして大変な困難を背負ってしまった子猫。強く強く生きて欲しい。そんな願いを込めた『香』です。あれからもう2年、すっかり成長したこの子に日々癒されています。私はこの子の親にはなれませんが、少しでも長い間、この子の成長を見守れたらなと思います。
こんなに香の話ばかりでは、あの子がやきもちを妬いてしまいますね。でも、いつもこうやって肌身離さず遺骨を持っていますから、きっと大丈夫かな。これね、孫にも好評なんですよ。おじいちゃん、ナウいって笑
『角』さんがやってきたのは、もう10年くらい前ですかね。
この名前、ピンときましたか?将棋の角からとりました‥ではないんです。
まだ名前をつけていない頃、私がいく先々に傍についてくる、その様子を見た妻が「水戸黄門みたいね」といったのがきっかけです。まあ悪の成敗はしないし、長旅もしないし、印ろうも出さないけど、ずっと傍にいる立派な角さんでした。
本当にいろんなところに出かけました。猫であることを忘れるくらい連れ回したなあ。香に出会った神社は朝のおきまりの散歩コースで、毎朝お参りしました。境内で大きなあくびをしながら二人で昼寝したこともありました。野山に入って、ノミがついて大騒ぎになったことも。たくさん妻に怒られたのを思い出します。子猫のときに親戚の家から我が家にやってきた角さん。親の顔を覚えていないからなのか、夜寝るときは必ず私の懐に入ってきました。湯たんぽよりもあたたかくて、ふわふわした感触は今も忘れられません。
別れは突然でした。いつもは私とでかける角さんがいない。家族で探しましたが、家のどこにもいない。近所にもいない。軽自動車を飛ばして血眼で探しましたが見つからない。台風の長い尾っぽに巻き込まれた荒天の日曜日、ずぶぬれで帰ると、ご近所さんから電話がなりました。神社の前に猫が死んでるよ。
タオルを投げ捨て、妻と一緒に神社へ向かいました。角さんでした。
助けたくて助けたくて、心臓が止まっている角さんを病院に連れて行きました。死んでいるってわかっていたけど、そうしないと気持ちが収まらなかったんですよね。責任を感じていたというか。獣医さんからは、外傷はあるものの、結局死因はわからないということでした。なんらかの理由で心臓がショック状態になってしまったんだろうと。
猫は死に際を見せないって聞いてはいましたが、本当にそうなるとは。さびしいもんですよ。黄門様は角さんがいないと旅ができないんだから。ドラマの角さんはシリーズで代わるけど、私の角さんはお前だけだよ。
(プレアで葬儀)
せめて葬儀を立派にしてやりたくて、いろいろあたったんですが、人間のとこはどこも相手にしてくれなくて。かといって、清掃工場に持って行くのは気が引けていた時に、プレアを知ったんです。家からはかなり遠いんですが、ペット専門できちんと弔ってくれると知人から聞きましてね。
噂通り、本当にきちんとやってくれました。ものでなく、『命あるもの』として扱ってくれたのが本当に嬉しかった。骨にした後、いつも角さんと一緒にいたい黄門様の願いを聞いてくれて、遺骨を入れるストラップを紹介してくれました。それがナウいこれです笑
もう動物は飼わないって、決めていたのにね。不思議なもので、またあの神社で出会ってしまったものだから、角さんにできなかったことをこの子にしてやりたいって思っちゃったんですよね。角さん怒ってるかな、でも毎日お供もなく散歩している黄門様を不憫に思って新しいお供をつけてくれたのかな。だとしたらありがたいね。今度は守ってやらなきゃね。