(シロとの思い出)
雨がしとしと降り続く秋雨の季節になると、シロを思い出します。シロはその名の通り真っ白な犬でした。雑種なのか柴犬なのか、結局最期までわかりませんでしたが、家族である私たちにとってそんなことはどうでもいいことでした。TV報道でたまたま目に入った保護されたペットたちの殺処分。まさに衝動的に、すぐに保健所に電話をかけ、その週のうちに保護犬との面会となりました。たくさんの犬や猫、みんな想像していたよりもずっと元気に過ごしていて、ちょっと安心したのと同時にまもなくその命が絶たれるのかと、どうしようもない気持ちになったことを覚えています。本当にたくさんの命がそこにはありました。その中で、一際生命力に満ちた子犬がいました。それがシロとの出会いですね。手足がまだ短くて、コロコロしていて、当時はまだ真っ白ではなくて、ちょっと茶色っぽい毛も混じっていました。とにかく元気なんです。走り回って壁にぶつかるくらい。まるでぼくはここで終わらないって強い意志を持っている様でした。その気迫に負けたんですかね、私はシロを連れて帰ることにしました。
小学生の頃に縁日で買ったミドリガメ以来ろくにペットを飼ったことがない私が育てられるか不安でしたが、それよりもせっかく出会ったこの子を幸せにしたいという気持ちが勝り、いつしか不安はなくなりました。人生で初めてといっていいくらい、本気を出した気がします。子育てのときにも育児本を読まなかったのに、子犬の育て方とかしつけの本をたくさん読みました。恵まれない境遇だったからこそ、誰にも負けない立派な犬になってほしいって思ったんです。
よく食べて、よく遊ぶ賢い犬だったシロ。自営業の私の手伝いもよくしてくれました。
中でも店番は一番の彼のお仕事でしたね。犬がいる美容室という評判になったのもシロのおかげです。常連さんはシロにお菓子とかおもちゃを買ってきてくれるのですが、それに味をしめてしまって、だんだん図々しい店番係になっていったのは彼の名誉のために黙っておきましょう。
そういえば、子供の面倒もよく見てくれたのを思い出しました。当時まだ小さかった私の子供たちがお風呂からあがると、ペロペロとからだを舐めて拭いてあげていましたね。兄弟喧嘩が始まると、私に知らせようとワンワンと吠えながら走ってきたり。お兄さんという自覚があったのかな。
親バカかもしれませんが、そんな素晴らしい息子でした。だから病気になったときのショックは相当でしたね。
10歳になったある日、突然痙攣を起こしたんです。その時はすぐに治ったのですが、それからも頻繁に続くようになりました。
脳に癌がある。診察結果は深刻でした。すでに癌は全身に転移していて、もって数ヶ月とのこと。頭が真っ白になりました。
だって、元気に走り回ってるんですよ。今日も、きっと明日だって。なのに、数ヶ月後にはもう。
もうきっと治らない。そう理解していても足掻いてしまうのが親なんですね。そこから私は食事療法の勉強をし、少しでもいいから、シロとの時間を引き延ばせる様に過ごしました。いつ起きるかわからない痙攣も家族みんなで対処し、旅行にも何度も行きました。悪夢の様な診断を受けてから、いつの間にか2年の月日が経っていました。12歳になったシロはすっかり真っ白な老犬になりました。いつもどおり店番をし、まもなく閉店という夕方に、店先で眠る様に息を引き取りました。行儀よく伏せをして、昔教えたとおりにきちんと前足の上にあごを乗せて。
(式を終えて)
家族みんなで棺に入ったシロと最後の記念写真を撮りました。笑って送り出そうって言い出したのは私なのに、泣いてしまいました。連られるように子供たちも、主人も。シロは幸せだったかな。もっとこんなことしてあげたかったな。火葬を待つ間は、家族でそんな反省話ばかりしていました。
プレアさんで式を終えて以来、毎年欠かさずに合同慰霊祭には足を運んでいます。シロに家族の近況報告もしたいですしね。
卒塔婆を必ずお供えする様にしているのですが、だんだん娘の画力が上がってきているなと感じれるいい機会です。
こんなこといったら天国のシロに怒られそうですが(笑)
今年の春、犬のいなくなった「犬がいる美容室」に新たな店番がやってきました。
シロによく似た賢い顔、雑種のクロちゃんです。冗談のような話ですが、この子を家に連れ帰ってきたのは、主人なんです。
シロを忘れたくないから、黒にしたよ。だって、クロって呼んだら絶対シロも思い出すでしょ。白黒はワンセットなんだからさ。
じゃあクロにもしものことがあったときはどうするんだってツッコミたかったですけど、それはなしってことで。
家族思いのやさしい主人ということにしておきましょうか(笑)